すなばこ

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『バトル・シミュレーション イラク軍vs.多国籍軍』【ブックレポート】

古のコンバットコミックの空気がここに。

 

ボム・コミックス

『バトル・シミュレーション イラク軍vs.多国籍軍日本出版社

ISBN-4-89048-274-1

本書はコンバットコミック1990年12月号および91年1月号に掲載された湾岸戦争を題材にしたコミックやコラムを収録したアンソロジーである。

初版1993年であるからいま令和のご時世にこれが手に入るかは甚だ疑わしいものである。ヤフオクに……あるかなぁ。

 

本書に収録された全12編の解説と共にレポートしていきたい。

(作者敬称略)

 

『砂漠の豹』小林源文

多国籍軍の一員として派遣されたドイツ陸軍第21カンプグルッペ
戦線前方で劣勢に陥った友軍支援のために前進をはじめようとしていた……

ご存じゲンブンせんせの架空戦記。おなじみゲンブン節もあるよ!

トップ掲載でありストレートな内容だが、短い中でも場面をこまめに切り替え緊迫感を出しながらもその実スッと染み渡るシンプルなストーリー構成がとてもよい。

これだけならどっかの源文先生の単独アンソロに収録されてるんじゃないかな?(未調査)

いつものゲンブン節

『砂上の楼閣』作:藤 大輔/画:城 久人

突如イラクが侵攻したクウェート市内、王宮警備機甲中隊のシャヒール中尉はチーフテン戦車部隊を率いて過酷な迎撃戦に引き摺りこまれていく

主人公のアリ・シャヒール中尉率いる戦車隊の活躍は必見

クウェート侵攻直後をクウェート側視点から描いた作品。

藤大輔先生の光る台詞回しと城 久人先生の描くカッチョイイ漢達の八面六臂の活躍が見どころ。それはそうとチーフテンがこんなに活躍したマンガって他に見たことないなぁ。

 

『ナイトホーク』笠原敏夫

F-117ナイトホークを装備する416TFSは緊迫するクウェート情勢を睨んでサウジアラビアに展開していた
長期に渡る駐留で士気が下がりゆく仲、DIA職員がある密命を持ってやってくる

どこか仄暗い雰囲気漂う、湾岸戦争直前の「裏」を書いた作品。

長期の駐留による「ダレ」で事故が起こったり、密命による攻撃作戦であったり、その結末まで暗さややるせなさを感じさせる空気感である。

この手のシーンは戦記物ではままあるものだが、それそのものをハイライトとして切り出してマンガにしたのは個人的には結構新鮮な感じ。

言うて滅多にやれるものでもないが。

 

イラク軍全装備』鈴矢那智

クウェート侵攻時のイラク軍の主な装備品についてイラストを添えて紹介するコラム

イラスト中心で当時のイラクの固定翼機やAFV/IFV、火砲などについて紹介するコラム。中にはほかのお話に出てくる機材もあるので読んでおくと引き立つ。

それにしても色々な国からよくもこんなに機材を集めたもので、オイルマネーすごいなぁ……

 

『七日目の朝』作:武馬 猛/画:国城さとし

クウェート侵攻に伴いサウジアラビアに駐留していた米軍部隊はイラク軍から攻撃を受ける
しかし、それはイラク軍の意図したものでない米軍のマッチポンプであった

仄暗いシリーズ第2弾。実際読んだ人には『ナイトホーク』とのつながりを感じる部分があると思う(明言されてはいないが、状況的にモロである)

戦争の開戦時あるあるなシーン詰め合わせみたいな感じで、中盤辺りは何年か前に現実でもこんなん見たぞ的なのもあったり。最後にはまさかの「お友達」登場だったりとネタに事欠かない。

 

『デザート・シールド・ワン・アワー』作:藤大輔/画:居村眞二

毒ガス攻撃により汚染された地域の上空をガスの効果が消える1時間後まで守るよう命じられた1機のAH-64”ジェリー・アロウ”
しかしそこはイラク軍にとってルメイラ油田奪回のための重要な進撃ルートの上であった

個人的にこの単行本で一番好きなお話。なんたって超面白い。
AH-64”ジェリー・アロウ”に乗る何故か関西弁を喋るおっさんコンビが、友軍を護るため一時間の無謀な防衛戦に挑むお話。余計なものが無い短編映画のような見事なストーリー構成に、脚本の筆が乗りまくったのかキレッキレな名台詞がこの活劇を彩ってくれている。

短い構成ながらキャラの魅力までキッチリ立っていて、このアパッチのコンビの話を他にも読んでみたいくらいである。当時読めていたら間違いなく穴の開くまで読んで、おうえんのお便りを送っていたことだろう。

なんなら世が世ならこのお話のセリフは語録になっていただろうし、使えるならどこかで使ってみたいものである。通じるかはともかくね。

♪進め~~空のかなたへ かっがやぁ~~~星よォ~~

だいぶスレスレなセリフもあるがそれもご愛敬

『イラスト図解 激動の中東最前線 多国籍軍の実力』イラスト:上田信 小泉和明&Kファクトリー/構成:藤 大輔

多国籍軍の運用する陸海空それぞれの主要な装備品について、イラストとともに開設するコラム

前述の『イラク軍全装備』とは異なりこちらはテキスト多めで、内容も各軍の展開や戦力について述べており性格が異なるところ。

こっそりチーフテンが扱き下ろされてる(英軍のだけど)けどいいんですかね……

 

『三二普連西へ』作:中黒 康/画:鈴矢那智

国連平和協力隊の一員として派遣され、輸送任務に従事する陸自第三二普通科連隊
慣れぬ砂漠で道に迷う最中、猛然と突進するイラクフセイン親衛戦車部隊に遭遇してしまう

IF話が並ぶ中でもちょっと明るめの話。いやこれ実際に起こったら国会ヒートアップしそうだけど。

中東貢献の一環として輸送任務に従事する自衛官3人組が、トラブルで本体から遅れる中、親衛戦車部隊に遭遇してしまって……というお話。いや上の画像でモロにやられてるけど。えらいこっちゃ。

でもこれは鈴矢那智先生の作風に言えることだけどいろんな事情や変人を抱えながらも明るさで乗り切って決して暗い話にしないところは流石。

めちゃくちゃかっこいいカイオワのサービスカットもあるぞ!

『ナイト・キャメル』作:藤 大輔/画:居村眞二

新人戦車長であるリーマン少尉は南部連合旗を掲げたM1エイブラムスを駆り、部隊を率いて新人ながら戦果を上げていた
そしてある日、彼の部隊に本隊進撃に伴う先行偵察の任が下されるが……

意外とここまでなかった米陸軍戦車部隊の視点から描かれた作品。

機甲学校出たての新人、リーマン少尉ですら部隊を率いて戦果を挙げられるというある種異常な状況のなか、部隊の中隊長から偵察任務が言い渡されるというお話。

短めのお話ではあるが、主人公が南部連合旗おっ立てたM1エイブラムスというなかなか考察しがいのありそうな造形であるのが見どころ。

最後は副題の”Bitter Taste Victory”そのものになってしまうし、見た人にとっては忘れがたい名場面であるがネタバレになるのが辛いところ。わかる人にはテキストの上の句だけで下の句が返せるレベルだと思う。

ディキシーランドの旗を掲げたエイブラムス、手軽に行けそうだし作りたいところではあるもののたぶんネタが通じないだろうなァって思う。それでもいいけど。

 

『ギデオンの刃』作:武馬 猛/画:国城さとし

イラク軍がイスラエル各地域に対してミサイルによる毒ガス攻撃を敢行
イスラエル軍がその報復として攻撃に選んだ対象は……

今のご時世的にすっげー触れにくいネタ。触れやすい時期あるかって言われたらあれだけど。読む度によくもマンガで出せたねこれ……って思う。めちゃくちゃ危ない。

内容は前述の要約の通りなのであまり言う事はないが、しいて言うなら途中のブリーフィング場面の女性士官の顔アップシーンの素材適性が優れ過ぎているところか。

台詞コラすればかなり使えそう(通じる場所は選ぶけど)

モヤモヤエフェクトと迫真顔とそこそこ汎用性のある台詞でネタ性が高すぎる

一気に押し切ってしまう時に貼る画像にどうぞ

いい笑顔でとんでもねーこと言ってくれるんじゃないよ

 

『デザート・ラッツ』作:森井俊之/画:城 久人

英陸軍第七機甲旅団ウィンゲート大尉率いる戦車部隊は停戦を前にして、これを優位にするために可能な限り進出する命令を受けていた
そのなかで、苦戦する友軍支援のためクウェート市街に入るが……

英国陸軍視点からのお話。今回は珍しく停戦直前のお話で、そういう時にありがちな「交渉を有利にするためにできるだけ押せ」の命の元前進する部隊が前方の友軍を救援しようとする。前のコラムでくさされた弊害なのか、ここではチーフテンではなくチャレンジャー2を運用。いやコラム関係ないと思うけど。
なんたって見どころは城 久人先生の格好いい作画や、”城 久人”顔ともいうべきナイスガイの主人公「ウィンゲート大尉」が見どころである。

コミックあったら勧めたいところではあるが未調査。あっても手に入るかしらんけど。

超男前なウィンゲート大尉

 

『イラスト図解 激動の中東最前線 イラク軍の実力』イラスト:上田信 小泉和明&Kファクトリー/構成:藤 大輔

イラク軍の運用する装備品やその編成について、イラストとともに解説するコラム

前述の多国籍軍編に続いてこちらはイラク編。巻末では共々解説ページ扱いになっているが、ここでは1編のコラムとして扱わせていただく。

図説が多めで、中でもイラク軍の防空コンプレックスの図解は興味深いところ。

自分でも深掘りしたいが資料が無いのがねぇ……

 

あとがき

以上12編
気になった人は頑張って探してください。

もちろん電子書籍はありません。

ぼくは運よくブックオフで拾いましたが、こういう本は能動的に探すとなかなか見つからないのが怖いところ。

探す皆さんにご縁があることを祈っております……

 

と、言ったところで普通にAmazonに売っとるやんけ!!

買え。

 

(おしまい)

 

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